こんにちは。本日は、肩こりに長年悩んでいた50代男性の経過報告をご紹介します。現代人に多い肩こりですが、根本的な原因を見つけ、適切なアプローチを取ることで大きな改善が期待できます。
患者背景
50代男性、デスクワーク歴30年以上。週5日・8時間以上のPC作業を行っており、運動習慣はありません。仕事柄、常に肩や首に負担がかかる姿勢が続いており、特に左肩の痛みが強く、夜も痛みで寝返りが打てないとのことでした。
主訴
- 慢性的な左肩の痛み
- 首や背中の張り感
- 睡眠時の不快感(痛みによる寝返り困難)
施術方法と経過
施術は週1回、計5回の鍼灸セッションを行いました。以下が各回の施術内容と経過です。
第1回目
左肩と肩甲骨周囲に強い筋緊張を確認。肩井、肩中兪、風池などの基本穴に加え、局所のトリガーポイントにも鍼を行いました。施術後、首の可動域がわずかに改善。痛みはVAS(Visual Analog Scale)で10から7に軽減。
第2回目
前回よりも左肩の可動域は維持できているものの、依然として夜間痛が残るとのこと。大椎、曲垣、阿是穴にも鍼を追加。施術後、夜間痛が軽減し、睡眠の質が向上。
第3回目
肩こりによる頭痛も訴えるようになったため、後頭部の風池および後渓にアプローチ。姿勢指導も実施し、簡単な肩甲骨周囲のストレッチを提案しました。頭痛の頻度が減少し、痛みはVAS 5に。
第4回目
可動域改善が顕著に見られ、肩甲骨の動きもスムーズに。肩井への刺鍼時の圧痛が軽減しました。患者自身も「肩が軽い」と自覚する場面が増えたとのこと。VAS 3に低下。
第5回目
施術のまとめとして全体のバランスを意識し、脊柱起立筋や腰部にもアプローチ。患者は「施術前と比べて雲泥の差」と満足の意を示しました。
考察
この症例では、長時間のデスクワークによる姿勢不良と筋緊張の持続が主な原因として考えられます。特に、現代の肩こりでは上位交差症候群(Upper Crossed Syndrome)が関与していることが多く見られます。これは、胸鎖乳突筋や僧帽筋上部が過緊張し、逆に肩甲下筋や前鋸筋などの深部筋が弱化する筋バランスの崩れです。この筋緊張パターンが慢性的な肩こりや可動域の制限、さらには神経の圧迫による頭痛にもつながります。
※上位交叉性症候群とは姿勢の不良によって引き起こされる筋肉バランスの乱れです。デスクワークやスマートフォンの使用時間が長い現代に多く見られます。

施術では、肩井(肩甲部の緊張緩和)、風池(頭部および首肩部の血流改善)、大椎(全身調整および交感神経鎮静作用)、阿是穴(局所の痛点)などを選択しました。これにより筋緊張の軽減と血行促進による鎮痛効果が得られたと推測されます。
また、鍼刺激が中枢神経に与える影響にも注目します。鍼治療は末梢神経の興奮を抑制し、βエンドルフィンの分泌を促進することで、痛みの伝達をブロックする作用があります。さらに、筋膜のリリース効果により深部の筋肉まで緩めることが可能である点も、従来のマッサージや薬物治療に対する優位性と言えるでしょう。
さらに、セルフケア指導として肩甲骨ストレッチや姿勢改善法を併用したことが、症状の再発防止に寄与しました。患者が積極的にセルフメンテナンスに取り組む姿勢があったことも、短期間での症状改善につながった要因と考えられます。
このように、鍼灸施術は筋骨格系の問題に対して即効的かつ持続的な効果を発揮する可能性があります。特に薬物療法に頼らず、神経や筋膜に直接働きかけるアプローチは、慢性的な肩こりや頭痛の改善に有用です。
まとめ
5回の鍼灸施術で、VAS 10だった肩の痛みが最終的にVAS 3まで改善。患者の日常生活の質(QOL)は大きく向上しました。慢性的な肩こりも適切なアプローチと継続的なケアで改善が見込めます。
肩こりに悩む方は、ぜひ鍼灸を選択肢の一つとして検討してみてください。