腰痛は、多くの人が一度は経験する身近な症状ですが、その原因や病気は痛みの場所によって異なります。本記事では、腰痛が発生する部位ごとに考えられる原因や病気を医師監修のもと詳しく解説します。さらに、危険な腰痛の見分け方や適切な検査・治療法、日常生活での予防策についても紹介します。
腰痛の原因は、筋肉や骨、神経だけでなく、内臓疾患が影響している場合もあります。例えば、腰の中心部の痛みは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、腰の片側だけの痛みは内臓疾患が関係している可能性があります。また、腰の上部や下部の痛みも、それぞれ異なる病気が原因となることがあります。
この記事を読むことで、自分の腰痛の原因をある程度推測し、適切な対処法を知ることができます。早めの対応が必要なケースを見極めることで、悪化を防ぎ、快適な日常を取り戻しましょう。
この記事を書いた人

鍼灸院Lapis Three代表 秋山貴志
1. 腰痛とは何か
1.1 腰痛の定義
腰痛とは、腰部に生じる痛みや違和感の総称であり、医学的には明確な診断基準が定められています。一般的には「腰の下部から臀部付近にかけて感じる痛み」を指し、発症する原因や病態によって症状が異なります。
日本整形外科学会によると、腰痛は「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」に分類されます。特異的腰痛とは、画像検査などで原因が明確に特定できる腰痛(例:椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)を指し、非特異的腰痛は、原因が明確には特定できないものの、動作や姿勢に影響を受けやすい慢性的な痛みを意味します。
最近では、慢性的な腰痛の中でも「非特異的腰痛」が注目されており、慢性腰痛の85%が非特異的腰痛が原因ともいわれています。非特異的腰痛は病院での治療ではなかなか解決できないことも多く、鎮痛剤やリハビリだけでは症状が改善しないケースが少なくありません。
こうした背景から、鍼灸治療が注目されています。鍼灸は、ツボへの刺激によって血行を促進し、筋肉の緊張を和らげることで痛みを軽減する効果があります。実際に、鍼灸を取り入れることで非特異的腰痛が改善したというケースも多く報告されています。
腰痛にお悩みの方は、病院での治療に加えて鍼灸を試してみるのも一つの方法です。適切な治療を受けることで、日常生活の質を向上させる手助けとなるでしょう。
1.2 腰痛の有病率
年齢層 | 腰痛発症率(概算) | 主な原因 |
10代~30代 | 約10%~20% | スポーツによる負荷、長時間のデスクワーク、筋力不足 |
40代~50代 | 約30%~40% | 加齢による椎間板の変性、過労、運動不足 |
60代以上 | 約50%以上 | 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症に伴う痛み、筋力低下 |
また、厚生労働省の統計によると日本人の40歳以上の約80%が生涯に一度は腰痛を経験するとされ、特にデスクワークの増加により慢性的な腰痛を抱える人が増加傾向にあります。近年では、リモートワークの普及に伴い、運動不足や長時間の不良姿勢が腰痛を悪化させる一因になっているとも指摘されています。このように、腰痛は多くの人が経験する症状であり、年齢や生活習慣の影響を大きく受ける疾患の一つとして認識されています。
1.3 腰痛の経済的損失
腰痛は、働く世代にとって非常に一般的な症状であり、その結果として生じる 経済的損失は莫大 です。日本では、腰痛による 労働損失や医療費の総額は年間約3兆円 にも上るとされています。主な原因は以下の通りです。
- 労働生産性の低下: 腰痛による欠勤や労働効率の低下が発生し、生産性に大きな影響を与えます。特にデスクワークや立ち仕事の多い職場では深刻です。
- 医療費の増加: 整形外科での診察や画像検査、鎮痛剤の処方などにかかる費用が積み重なります。
- 介護やリハビリのコスト: 慢性腰痛は要介護の原因にもなり、リハビリや介護サービスにかかる費用も無視できません。
こうした経済的損失を軽減するためには、早期の治療や予防が重要です。
2. 腰痛の部位別の原因と病気
2.1 腰の中心部の痛み
2.1.1 考えられる原因と病気
腰の中心に感じる痛みは、多くの人が経験する腰痛のタイプの一つです。この部位の痛みは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患が原因となることが多く、慢性的または急性的に発症することがあります。
2.1.2 椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、背骨の間にある椎間板が変性し、椎間板の中心部にある髄核が外へ飛び出すことで発生します。飛び出した髄核が神経を圧迫すると、腰痛や足への放散痛が現れることがあります。
2.1.3 脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなることで起こります。加齢とともに骨や靭帯が変性することで発症しやすく、主に高齢者に多くみられる疾患です。
代表的な症状として、歩行時に痛みやしびれが現れ、しばらく座ると症状が軽減する「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」があります。
2.1.4 腰椎分離症・すべり症
腰椎分離症は、腰椎の後方部分が疲労骨折し分離してしまう疾患で、成長期のスポーツ選手に多く見られます。
一方、腰椎すべり症は、腰椎が正常な位置からずれ、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こします。
2.1.5 筋筋膜性腰痛
急な動作や長時間の同じ姿勢によって腰周辺の筋肉が過度に緊張し、痛みを引き起こす症状です。
デスクワークや運転時間が長い人に発生しやすく、ストレッチや筋肉の温熱療法によって改善が期待できます。
2.2 腰の片側の痛み
2.2.1 考えられる原因と病気
腰の片側だけに感じる痛みは、筋肉や関節の問題だけでなく、内臓疾患が関係する場合もあります。
2.2.2 片側だけに負担がかかる動作や姿勢による痛み
日常生活の中で、片側に負担がかかる動作が多いと、腰の左右いずれかに痛みを感じることがあります。
例えば、バッグを片側だけで持つ習慣や、片側に体重をかける立ち方、長時間の片足重心が長引くことで発症することがあります。
2.2.3 内臓疾患による関連痛
腎臓や胆のう、婦人科系の疾患からくる関連痛も、腰の片側に痛みを生じさせることがあります。特に尿路結石や腎盂腎炎などでは、腰の片側に鋭い痛みを伴うことが特徴です。
2.3 腰の上部の痛み
2.3.1 考えられる原因と病気
腰の上部、特に背中に近い部分が痛む場合は、神経や皮膚の疾患が原因となるケースが考えられます。
詳細なストレッチ方法については、日本理学療法士協会のガイドラインを参照してください。
2.3.2 肋間神経痛
肋間神経痛とは、肋骨に沿って走る神経が刺激され、痛みが生じる疾患です。姿勢の悪化や神経圧迫によって起こりやすく、特にストレスや疲労が原因となることが多いです。
2.3.3 帯状疱疹
帯状疱疹は水ぼうそうウイルスが再活性化することで発症し、皮膚に強い痛みや水ぶくれを伴います。腰の上部から背中にかけて神経に沿って痛みが走ることが特徴です。
2.4 腰の下部の痛み
2.4.1 考えられる原因と病気
腰の下部、特に骨盤やお尻のあたりにかけて痛みがある場合は、関節や神経の影響が考えられます。
2.4.2 仙腸関節炎
仙腸関節とは、腰椎と骨盤をつなぐ関節で、この部分に炎症が起こると腰の下部に痛みが生じます。特に妊娠中や出産後の女性に多いとされており、歩行時や階段の昇降時に痛みが増すことが特徴です。
2.4.3 梨状筋症候群
お尻の奥にある梨状筋が硬直し、坐骨神経を圧迫することで、腰の下部から足にかけて痛みやしびれが現れる疾患です。
長時間座ることが多いデスクワーカーやドライバーに発症しやすく、ストレッチやマッサージが有効です。
2.5 非特異的腰痛 どの場所でも起き得る
非特異的腰痛は、「腰椎下部」「仙腸関節」「脊柱起立筋」「腰方形筋」「臀部」「腸腰筋」 で特に発生しやすいです。これらの部位は、日常の姿勢や動作、ストレスによって緊張しやすい場所になります。
画像検査(MRIやレントゲンなど)や血液検査では原因が特定できないことが多いですが、身体診察によって原因部位をある程度特定することが可能です。
非特異的腰痛は、心理的・社会的要因の影響を強く受けるため、薬物治療やリハビリだけでは十分に改善しない場合があります。特に、ストレスや不安、職場や家庭での人間関係が引き金となり、痛みが増幅されることが知られています。
こうした痛みは、「痛覚変調性疼痛」(Central Sensitization Pain)と呼ばれ、脳や神経系が過敏になることで生じる痛みです。このタイプの痛みを改善するためには、薬やリハビリに加えて、心理的な側面からのアプローチも同時に行う必要があります。例えば、認知行動療法(CBT)やストレス管理、鍼灸治療による自律神経の調整などが効果的です。これらの方法は、痛みの認識を改善し、ストレスによる筋緊張を緩和することで、非特異的腰痛の症状を和らげます。

部位 | 主な疾患 | 特徴 |
腰の中心部 | 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症、非特異的腰痛 | 神経の圧迫による痛みやしびれ |
腰の片側 | 内臓疾患(腎盂腎炎など)、片側負担の姿勢、非特異的腰痛 | 一方のみに現れる鋭い痛み |
腰の上部 | 肋間神経痛、帯状疱疹、非特異的腰痛 | 神経の刺激によるピリピリした痛み |
腰の下部 | 仙腸関節炎、梨状筋症候群、非特異的腰痛 | 歩行や座位で悪化しやすい痛み |
3. 腰痛の症状と緊急性の判断
3.1 緊急性を要する腰痛の症状
腰痛の中には放置すると危険な病気が隠れている可能性がある症状が存在します。以下のような症状が見られる場合は、ただちに医療機関を受診しましょう。
症状 | 考えられる疾患 | 説明 |
突然の激しい腰痛 | 腰椎圧迫骨折、大動脈瘤破裂 | 高齢者の転倒や骨粗しょう症がある場合、腰椎圧迫骨折のリスクがあります。また、大動脈瘤が破裂した際にも腰痛が生じることがあります。 |
足のしびれや麻痺 | 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症 | 神経が圧迫されることで、足の感覚が鈍くなったり、力が入りにくくなったりすることがあります。 |
発熱を伴う腰痛 | 脊椎感染症(化膿性脊椎炎など) | 細菌感染による脊椎の炎症が原因となることがあり、早期の抗生剤治療が必要です。 |
排尿・排便障害を伴う腰痛 | 馬尾症候群 | 重篤な神経障害の兆候であり、早急な手術が必要になる可能性があります。 |
がんの既往歴がある人の腰痛 | がんの脊椎転移 | がんが骨に転移することで強い腰痛が引き起こされることがあり、精密検査が必要です。 |
これらの症状がある場合、自己判断で放置せず、すぐに整形外科や救急外来を受診することが重要です。
3.2 慢性的な腰痛の症状
一方で、慢性的な腰痛は多くの人が経験する一般的な症状であり、日常生活の影響が大きいものです。しかし、適切なケアを行わないと慢性化し、生活の質を著しく低下させる可能性があります。
症状・特徴 | 考えられる原因 | 対処法 |
朝起きたときに腰が痛い | 寝返りの少なさ、マットレスが合わない、椎間板の変性 | 適切な寝具の選択、寝姿勢の改善、朝のストレッチが効果的 |
長時間座った後に痛みが増す | 筋筋膜性腰痛、姿勢の乱れ | 定期的なストレッチや姿勢改善を行う |
立ち仕事が多いと腰が痛む | 腰部の筋肉疲労、反り腰 | 足の負担を減らすインソールを使用し、適度なストレッチを行う |
歩くと腰が痛くなる | 脊柱管狭窄症 | 背筋を丸める姿勢を意識すると痛みが緩和しやすいことが多い |
運動すると痛みが和らぐ | 筋力不足による腰痛 | 適度な運動や筋トレで腹筋・背筋を強化する |
慢性腰痛は、日常生活の動作や姿勢、筋力の低下が原因となることが多いため、無理のない範囲での運動や生活習慣の見直しが重要です。また、改善しない場合は整形外科を受診し、適切な治療を受けることを検討しましょう。
腰痛は、急性のものと慢性のものがあり、適切な対処をすることで症状を軽減することが可能です。特に、緊急性がある症状を見逃さないようにし、早めの医療機関の受診を心がけましょう。
4. 腰痛の検査と診断方法
腰痛の原因を特定し、適切な治療を行うためには、正確な診断が欠かせません。腰痛の診断は、問診、身体診察、画像検査の3つのステップを経て行われます。
4.1 問診
問診では、患者の 症状の詳細 や 腰痛の発症時期、痛みの部位、日常生活への影響 などを詳しく確認します。
医師が問診時に確認する主なポイントとして、以下のような質問が挙げられます。
質問項目 | 具体的な内容 |
痛みの発生時期 | いつから痛みがあるか、急に発症したか、慢性的に続いているか |
痛みの強さと性質 | どの程度の痛みか、鋭い痛みなのか鈍い痛みなのか |
痛みの部位 | 腰のどの部分に痛みがあるか、片側か両側か |
痛みの増減要因 | 特定の姿勢や動作で悪化するか、安静にすると楽になるか |
併発症状の有無 | 発熱、しびれ、歩行困難などがあるか |
これらの情報をもとに、医師は腰痛の原因をある程度推測し、次の診察ステップへと進みます。
4.2 身体診察
問診の結果を踏まえ、医師は患者の 腰の可動域 や 姿勢、筋力、神経症状 などを総合的に評価します。
身体診察では、以下のような検査が行われます。
検査方法 | 目的 |
直立姿勢の観察 | 姿勢の歪みや筋肉の緊張を評価 |
前屈・後屈・側屈検査 | 痛みの発生部位と可動域を確認 |
膝蓋腱反射・アキレス腱反射 | 神経異常の有無をチェック |
SLR(Straight Leg Raise)試験 | 坐骨神経痛の可能性を調べる |
徒手筋力テスト | 特定の筋肉の筋力低下の有無を確認 |
身体診察によって、単なる筋肉の炎症なのか神経の異常なのかを見極める手がかりを得ます。
4.3 画像検査
腰痛の原因がより詳細に分かるよう、必要に応じて画像検査を行います。代表的なものには X線検査、CT検査、MRI検査 があります。
検査種類 | メリット | デメリット |
X線検査 | 骨の変形や骨折の有無を確認 | 筋肉や神経の異常は判別できない |
CT(コンピュータ断層撮影) | 骨の詳細な構造を把握できる | 放射線被曝のリスクがある |
MRI(磁気共鳴画像) | 椎間板や神経の状態を詳細に確認可能 | 検査時間が長く費用が高い |
特に、MRI検査 は椎間板ヘルニアや神経の圧迫を調べるのに有効な手段で、より精密な診断が可能です。ただし、高額な検査費用や検査時間の長さがデメリットとなるため、必要に応じて実施されます。
また、内臓疾患が疑われる場合は、超音波検査や血液検査 が行われることもあります。
腰痛の原因を正確に特定することで、適切な治療法の選択が可能になります。放置せず、早めの診察を受けることが重要です。
5. 腰痛の治療法
腰痛の治療は、症状の程度や原因によって方法が異なります。主に保存療法と手術療法に分けられ、保存療法が第一選択となることが一般的です。加えて、鍼治療などの代替療法も取り入れられることがあります。
5.1 保存療法
保存療法は、手術を行わずに症状の軽減を目指す治療法です。日常生活の改善や薬物療法、リハビリテーションが含まれます。
5.1.1 薬物療法
腰痛の治療では、痛みを和らげるためにさまざまな薬が使用されます。主な薬剤は以下の通りです。
薬剤の種類 | 主な作用 |
非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs) | 炎症を抑え、痛みを軽減する |
筋弛緩薬 | 筋肉の緊張を緩和し、痛みを和らげる |
神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンなど) | 神経の過敏性を抑え、慢性的な痛みを軽減する |
オピオイド鎮痛薬 | 強い痛みに対して処方されるが、長期使用には注意が必要 |
薬物療法の選択は、日本整形外科学会のガイドラインなどを参考にしながら、医師の診断に基づいて行われます。
5.1.2 理学療法
理学療法は、筋肉の緊張をほぐし、正しい姿勢や運動パターンを回復するのに有効です。主な方法は以下の通りです。
- ストレッチ – 筋肉を伸ばし、柔軟性を維持する
- 筋力トレーニング – 腹筋や背筋を鍛え、腰への負担を減らす
- 温熱療法 – 温湿布やホットパックを用い、血流を改善し痛みを和らげる
- 電気治療 – 低周波治療器を用いて筋肉を刺激し、緊張を軽減
5.1.3 装具療法
コルセットやサポーターを使用することで、腰への負担を軽減し、姿勢を安定させることができます。特に慢性的な腰痛や急性期の痛みに有効です。ただし、長期間の使用は筋力低下を招く可能性があるため、適切な期間で使用することが重要です。
5.2 手術療法
保存療法で症状が改善しない場合や、神経症状が進行する場合に手術が検討されます。代表的な手術方法には以下のものがあります。
手術の種類 | 適応症 | 特徴 |
腰椎椎間板ヘルニア摘出術 | 椎間板ヘルニア | 突出した椎間板を除去し、神経への圧迫を軽減する |
腰椎固定術 | 脊柱管狭窄症やすべり症 | 不安定な脊椎を固定し、安定性を向上させる |
内視鏡下手術(MED) | 軽度の椎間板ヘルニアや狭窄症 | 小さな切開で行い、術後の回復が早い |
手術にはリスクが伴うため、日本脊椎脊髄病学会の情報を参考にしつつ、医師との十分な相談が必要です。
5.3 鍼治療
鍼治療は、一般的な腰痛から原因が特定できない非特異的腰痛、さらには痛覚変調性疼痛(Central Sensitization Pain)まで、幅広い腰痛に対して効果的なアプローチが可能です。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症といった明確な原因がある腰痛には、ツボへの刺激によって血行を促進し、炎症や筋肉の緊張を緩和すると同時に、エンドルフィンなどの神経伝達物質を分泌させて痛みを抑えます。また、鍼治療はセロトニンやノルアドレナリンが関与する下降疼痛抑制系の働きを高めることによって、中枢神経系からの痛みの伝達を効果的に抑制します。一方で、画像検査や血液検査では特定できない非特異的腰痛には、筋肉や靭帯の緊張を解消し、姿勢改善をサポートするほか、自律神経の調整によってストレスや生活習慣による影響を和らげ、痛みの原因となるトリガーポイントへの直接アプローチも行います。さらに、ストレスや不安などの心理的・社会的要因によって脳や神経が過敏になることで生じる痛覚変調性疼痛には、鍼治療によって脳内のセロトニンやドーパミンの分泌を促進し、神経過敏を鎮めるとともに、交感神経の過活動を抑制して心理的なストレスによる筋緊張を緩和します。研究によると、腰痛に対する鍼治療は西洋医学の治療と併用することで、より高い効果が期待できると報告されています。日本鍼灸医学会による情報も参考にしながら、医師や鍼灸師と相談すると良いでしょう。
6. 腰痛の予防とセルフケア
腰痛は日常生活や仕事による負担が原因で発症することが多いため、適切な予防策やセルフケアを行うことでリスクを低減できます。ここでは、腰痛を防ぐための具体的な方法について詳しく解説します。
6.1 ストレッチ
ストレッチは腰回りの筋肉を柔軟に保ち、腰痛を予防する上で重要です。以下のストレッチを日常に取り入れましょう。
ストレッチの種類 | 方法 | 期待できる効果 |
ハムストリングスのストレッチ | 座った状態で片足を伸ばし、つま先をつかむように上半身を倒す。 | 腰や太ももの柔軟性を高め、腰への負担を軽減。 |
腰回りの回旋ストレッチ | 仰向けに寝て両膝を立て、左右にゆっくり倒す。 | 腰椎の動きを改善し、こわばりを防ぐ。 |
猫のポーズ | 四つん這いになり、背中を丸めたり反ったりする。 | 腰椎と背骨の柔軟性を維持し、血流を促進。 |
6.2 筋力トレーニング
腰痛予防には腹筋・背筋の強化が欠かせません。腰を支える筋肉を鍛えることで、負担を分散させることができます。
- プランク: 前腕とつま先で身体を支え、一直線を保ちながら30秒キープ。
- ヒップリフト: 仰向けに寝て膝を立て、腰を上げて3秒キープ。
- スクワット: 膝を90度曲げることを意識してゆっくり行う。
6.3 日常生活での注意点
腰痛を予防するためには、日頃の姿勢や動作に気をつけることが重要です。
6.3.1 正しい姿勢を保つ
長時間の座り仕事が多い場合は、背筋を伸ばして座るよう意識しましょう。デスクワークをするときは、椅子の高さや机の位置を調整し、腰に負担をかけないようにしましょう。
6.3.2 重い物を持ち上げる際の注意点
重い荷物を持つ際は、腰だけを曲げて持ち上げるのではなく、膝を曲げて重心を低くしながら持ち上げることを意識してください。
6.3.3 適度な運動を習慣化する
ウォーキングや水泳などの有酸素運動は腰への負担を軽減し、血流を改善する効果があります。毎日30分程度の軽い運動を取り入れることで、腰痛の予防につながります。
7. まとめ
腰痛は多くの人が経験する症状であり、その原因は痛みの部位によって異なります。腰の中心部の痛みは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が、片側の痛みは内臓疾患の関連痛が考えられます。上部の痛みには肋間神経痛や帯状疱疹、下部の痛みには仙腸関節炎や梨状筋症候群が関与することがあります。
緊急性のある症状としては、強い神経症状や発熱を伴う場合が挙げられ、早急な受診が必要です。診断には問診や画像検査を用い、治療は薬物療法や理学療法を中心とした保存療法が主体となります。重症の場合は手術が検討されることもあります。
腰痛予防にはストレッチや筋力トレーニングが有効で、日常生活では正しい姿勢を意識することが重要です。適切なケアを行い、健康な腰を保ちましょう。